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最高裁判所第二小法廷 昭和50年(あ)277号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇日を本刑に算入する。

理由

被告人本人の上告趣意のうち、憲法三九条違反をいう点について。

所論は、違憲をいうが、検察官が第一審の無罪判決に対し控訴し有罪判決を求めることが憲法三九条に違反しないことは、最高裁新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判決・刑集四巻九号一八〇五頁の明らかにするところであるから、所論は理由がない。

被告人本人の上告趣意のうち憲法三七条、三八条違反をいう点について。

所論は、違憲をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

被告人本人の上告趣意のうち、その余の点について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

弁護人山崎幸夫の上告趣意のうち、判例違反をいう点について。

所論は、判例違反をいうが、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、適法な上告理由にあたらない。

同弁護人の上告趣意のうち、その余の点について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

なお、原判示第六の事実につき、被告人が作出した六片の物件は、通常人をして真正の銀行券を四つ折又は八つ折にしたものと思い誤らしめる程度の外観、手ざわりを備え、真正の銀行券として流通する危険を備えたものと認められるとして、通貨変造罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。

よつて、刑訴法四〇八条、一八一条一項但書、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(小川信雄 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊)

(原判決の理由(抄))

本件控訴の趣意は、静岡地方検察庁沼津支部検察官立岡英夫提出の控訴趣意書記載のとおりであるので、これを引用するが、その骨子は、原判決が無罪とした被告人の所為は、通貨変造罪または同未遂罪に該当するものであるのに、犯罪を構成しないとした原判決には、法令の解釈、適用を誤つた違法があるから、原判決破棄のうえ、原判決が有罪とした窃盗の各所為とあわせて然るべき判決をされたい、という趣旨のものである。

所論に鑑み、原審記録および原審および当審取り調べの関係証拠を検討してみるに、押収にかかる計六片の物件は、被告人が原判決判示の方法により作出したものであるが、右各物件は、通常人がこれを入手した場合に、真正の銀行券を、四つ折、又は八つ折にしたものと思い誤る程度の外観、手ざわりを備え、真正の銀行券として流通する危険を具えたものと認められるうえ、被告人が行使の目的で変造通貨を作製する行為に出たものと認められるから、被告人の右行為は、通貨変造の既遂罪を構成するものというを妨げない。従つて、右所為が通貨変造の既遂罪は勿論、同未遂罪にも当らないとして、犯罪を構成しないものとした原判決には、法令の解釈、適用の誤りがあり、右の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は全部破棄を免れず、論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条、三八〇条により、原判決を全部破棄し、同法四〇〇条但書により、被告事件につき更に判決することとする。

(罪となるべき事実)

被告人は

第六 同年一月二八日ころ、沼津市東沢田九一〇番地の三の自宅において、行使の目的をもつて、真正な日本銀行券一、〇〇〇円札二枚を用い、うち一枚を水でぬらして、はがれやすくしてから、手でもんで表と裏に剥離し、鋏で各二片に切断し、一、〇〇〇円券片四片を作り、うち三片につき、印刷のない片面を内側にして間に厚紙を挿入し、二つ折にして糊付けし、残り一片につき、印刷のない片面を内側にして間に厚紙を挿入し、四つ折にして糊付けするとともに、他一枚を鋏で二片に切断し、一、〇〇〇円券片二片を作り、いずれも裏面を内側にし、四つ折にして糊付けし、もつて真正な日本銀行券一、〇〇〇円券を四つ折または八つ折にした外観を有する一、〇〇〇円券合計六枚を変造し

たものである。

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